「愛情不足」は親を責める安易な言葉

「愛情不足」こんな言葉をかけられたら

親としてはショックですよね

子どもの問題はすべてが愛情不足が原因なのでしょうか?

そんなことはないでしょう

 

5歳の女の子が虐待されていたのにもかかわらず、虐待を行っていた当事者である親に許しを請う手紙を残していたという報道があり、あまりの痛ましさに目を覆い、耳を塞ぎたくなります。まだたった5歳だったのになんと賢い子だったことか。それなのに、毎日どんな気持ちでいたのだろうかと想像するだけで胸が痛いです。

壮絶な虐待をした親も、社会的に孤立していたり、経済的に困窮していたりしたのかもしれない。そうした状況を想像しなくてはいけないとは考えながらも、怒りと救いのなさを感じずにいられません。

一方で、子どもになにか困ったことがあると「愛情不足ではないか」と言いたがる人がいます。夜早くに寝ないと、おしゃぶりが取れないと、しょっちゅう風邪をひくと、非行に走ると、発達障害・LGBTであることがわかると、原因不明の病気になると、「あなたの愛情不足ではないか」と言われたという親御さんが実際にいます。診療に来てそう相談してくれる患者さん家族もいますし、私も言われたことがあります。

娘が電車で寝ぐずっていたとき、高齢女性が近づいてきて「お母さん、もっと抱きしめてあげて」と笑顔で下車していきました。実際には、テーマパークで遊んだ後で疲れていただけなのに。とっさに言葉が出ず、それでも何か言おうとした私に彼女は、「いいのよ、わかっているから」という顔でうなずいていました。

「愛情不足」は、親を責めるのになんと都合のいい言葉でしょうか。愛情は目に見えないし、触れられないし、数値があるわけでもなく検査もできません。今の日本では、誰かにとってなにか理屈で理解できないことがあると簡単に使われる言葉です。もしも、そんなことはない、誇張だと思ったらTwitterで「愛情不足 子」や「愛情不足 医者」で検索してみてください。この言葉を言われて傷つき悩んでいる人たちの声がやまほど出てきます。

残念ながら子どもが病気やケガをしたときに、医者をはじめ子どもに関わる専門家が、親、とりわけ母親のせいにしてそういう言葉を使うことがあります。間違っているうえに、不適切でご家族との信頼関係を壊す原因になると思います。「もうあの医療機関には二度と行きません」と外来で憤慨するお母さんがいます。もっともです。

愛情は、持っているだけでは、たとえ実の子どものような近い存在でも、実感することはできません。子どもはエスパーではないので、親が子どもを可愛いと思っていても、目を合わさず笑いかけも抱っこもしなかったら、愛情は伝わりません。行動に移さないと愛情は感じさせられないものです。つまり愛情とは行動です。子どもは空腹でなく、清潔で、保護者との双方向のコミュニケーションがあり、要求に速やかに対応してもらえたら愛情を感じられるはずです。

子どもが病気のときならば、どうでしょう。例えば、風邪を引いたけれど寝ているほど具合が悪くないときに親が示せる愛情は、母乳・ミルクや食べやすい食事を用意し、清潔な衣服と寝具で、慣れた自宅ですぐに休めるような状態で遊ばせることでしょう。深刻な病気かもしれないと思ったり、症状を和らげる薬が必要だったりしたら小児科を受診すべきですが、風邪だったら必ずしも受診は必要ありません。

「愛情」を注ぐのは母親だけの役目?

少し前に宮崎市自民党萩生田光一幹事長代行が、「0~3歳児の赤ちゃんにパパとママ、どっちが好きかと聞けば、はっきりとした統計はありませんけどママがいいに決まっている」と発言したことが報じられました(https://www.asahi.com/articles/ASL5W4F1ZL5WTNAB00D.html)。ゼロ歳児で保育園に入れないと預けにくく、親が働けなくなることに対しての言葉ですが、「子育てのほんのひととき、親子が一緒にすごすことが本当の幸せだと私は思います」という言葉の「親子」には、父親は含まれていないようです。

もちろん、家庭で母だけが育児することがすべての人に最適ではありません。萩生田氏の発言につながるような3歳児神話は、すでに国内外で否定されています。3歳までは母親が子育てに専念した方が良いという3歳児神話のきっかけとなったのは、イギリスの精神科医ボウルビィが1951年に示した理論ですが、彼が言いたかったのは、幼少時に信頼できる大人との愛着関係を築くことが大事だということでした。

子どもと愛情について考えるうえで、『子どもがすくすく育つ幼稚園・保育園』(内外出版)という本がお薦めです。この本も3歳児神話について否定したうえで、子どもに対する愛情はどういったポイントを押さえ、どう評価したらいいかが過去の事例と統計をもとに書いてあります。幼稚園・保育園のどちらも利用しない人は少ないと思いますが、園の良さを見分けるために何が必要なのかも書かれているので、親以外の愛情を考える際にぜひ読んでみてください。もちろん幼稚園・保育園に携わる人は、母親に「愛情不足では?」と問う前に必読です。

最後に、親が子どもに対する愛情を本当に感じることがなく、ふさわしい行動がとれないとしたら、「愛情が不足しているからもっと持ちなさい」と指摘されて、そうできるものではないでしょう。子どもに起こる困った事象は、親を責めることで解決はしません。まして、なんの落ち度もない親に「愛情不足」と決めつけることには、弊害しかありません。子どもに関わる仕事をしている大人には、特に注意してほしいです。

<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>

http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/(アピタル・森戸やすみ)

 

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