2022/08/25
「勉強は何のためにするのか?」
この質問の答えはこれまで様々なところで語られてきました。
そしてその答えは,語られる場所や語る人によって、様々に形を変えてきました。
この質問に対しての答えは,人の数ほど存在していると思います。
しかし,今だにこの質問が繰り返されているということは,
「答えはこれだ!」ってものにたどり着いた人がいないということを示していると考えて間違いないでしょう。
おそらくこの質問は,日本中,いや世界中ののありとあらゆるところで繰り返されてきた質問だと思います。
そして今この瞬間も、誰かが先生にこの質問をしてるのかも知れません。
でもきっと、日本中、世界中探しても、1つの答えにはたどりつけない。
なぜなのでしょう?
その理由を一言で言ってしまえば,
『質問者の置かれている状況によって答えが異なる』
ということになります。
親や先生を始めとするする大人たちは,
「いい会社に就職したいなら、勉強しなければだめだ!」
「将来の夢を見つけるためにも、勉強しなさい!」
「勉強することが、子どもの仕事!」
などといって勉強をさせようとします。
しかし,多くの中学生にとっては,これらのどれも心に響くことはありません。
一部の進学校を目指す生徒を除いて,勉強をする意味というものは,
将来お金持ちになるためでもなく、
教養豊かな人間になるためでもなく、
親に叱られるからでもなく
「高校に進学するため」
というひとつの手段に過ぎないのです。
以前指導していた生徒は,運動部に所属し,新人戦の県大会で上位に入賞した実績がありました。
そのため,部活動の結果に慢心しⅠ期選抜で志望校に合格できると高をくくっていたのです。
ところがⅠ期選抜はあえなく撃沈。
すべり止めにと受けた私立高校も不合格。
2月になって私が受験勉強を担当することになりました。
この生徒の場合,何の根拠もない自信をもって,合格したかのような錯覚に陥り,私立高校やⅡ期選抜の対策をまったく取っていませんでした。
結果としてはⅠ期選抜で受験した高校から2ランクほどしたの高校に合格しましたが,私の心の中には「せめて3年生の1学期~まじめに勉強に取り組んでいれば,第1志望の高校に合格させてあげることができたのに・・・」という残念な思いを禁じえませんでした。
この生徒の場合は,高校に行くために,部活動という手段を選択したわけですが,高校に行きたいと願っていない子であれば、高校に行くために勉強が必要という理由すら通じません。
ですから,もし親や先生が子どもや生徒を高校に行かせたいと思っているならば,勉強する理由よりも、高校に進学する理由を見つけてあげる方が先決です。
勉強は手段であって目的ではないわけですから,勉強をさせたいのであれば,勉強をするに値する目的作りが肝心なのです。
つまり,子どもが置かれた状況に合った答えを探すべきといえるのです。
そもそも,勉強をするということ自体は、本来1つの大きな意味を持っています。
それは、「人間らしく生きるため。」ということです。
残念ながら勉強を親の敵のように嫌っている生徒にはまったく説得力のないことですが,
「どうして勉強をするのか?」
という問いに対して一言で答えるのであれば,次のようなことがいえると思います。
この世に生きている動植物は全て、学習するという能力を持ち合わせています。
それはいわゆる本能的に備わっているもので、生きるために必要な能力です。
ただ、そういう動植物たちの中で、生存競争を生き抜くこと以外を目的として勉強ができるというののは人間だけです。
勉強をすることで、人間は文化・文明を作ってきました。
そして,言葉や絵を生み出し、自分たちの歴史を後世に伝えてきました。
つまり勉強することができるということは、人間と他の動植物とをわける大きな境目になっているということです。
逆に言えば,勉強をしない人は,人間にだけ備わった優れた才能を自ら放棄してしまっているのです。
もしも人間が,生まれてから全く勉強しなければ,文化も文明ももたず,只々種の保存のためだけの生殖活動と子育てを繰り返す野生動物と同じになってしまいます。
しかし,考えてもみてください。
どれだけ勉強嫌いの人でも、これまでの生活の中でたくさんのことを勉強していきているはずです。
言語によるコミュニケーション能力は,その最たる例といっても過言ではありません。
そして大人になって社会に出ても、勉強はずっと続きます。仕事や子育て,学校では教えてくれないことも,学校で勉強の仕方をしっかりと身につけていれば苦労することも少なくなります。
人間は,子どもから大人まで、一生勉強し続ける生き物です。
小中高と勉強していくのは、大人になってから勉強し続けるためのトレーニングをしているに過ぎません。
言い換えれば,小学校から高校を通してみなさんが必死にがんばっている勉強は,「学び方を学んでいる」ということなのです。
そして,みなさんが勉強している国語,数学,英語,理科,社会といった各教科は,「答えが明確」「人類の知の遺産の継承」という点からも,「学び方を学ぶ」ための教材として最高のものなのです。
今がんばって勉強している内容は,将来の生活でほとんど役に立たないかもしれません。
しかし,勉強を通して養われる,努力を積み重ねることができる忍耐力や課題を解決する創造力は,後の人生で必ずあなたを助けてくれることでしょう。
勉強をするということは,人生における基礎トレーニングです。
その点を見失うことなく,これからの学習に前向きに取り組んでもらうことができれば,大変うれしく思います。