この調査結果からもわかるように、「一夜漬け」ほどこんなにも身近な勉強スタイルがほかに存在するでしょうか。しかし、時に一夜漬けは、あなたの記憶や脳、心身に大きなダメージを与えることがあります。
今回は、そのダメージがいったいどういうものなのか、そしてどうすれば一夜漬けを回避できるのかについて見ていくことにしましょう。
「一夜漬け」によって受けるダメージとは?
【ダメージその1】記憶が長続きしない
一夜漬けで得た知識を記憶している時間はそう長くはありません。
長い間覚えている情報は通常、脳内奥深くの海馬と呼ばれる部位に保存されており、人間が特に思い出そうとしなくても自然と思い出される記憶も、ここにあります。皆さんはカレーの作り方を1から10まで忘れることはありませんよね? 個人差はあるにせよ、野菜と肉を切り、炒めて、ルーと一緒に煮込むといった一連の流れは、私たちの長期的な記憶として残っているでしょう。
それに対して、一夜漬けの記憶は短期的なもの。生理学者の久保田競氏によると、こうした短期記憶は「ワーキングメモリー」と呼ばれ、脳の表面にある前頭葉大脳皮質に保存されるそう。ワーキングメモリーに保存されるのは忘れても困ることのない記憶であるため、すぐに忘れてしまうのだとか。
テストには必要ある知識でも、それが終わって「覚えていなくても生きていける」と脳が判断すると、一夜漬けで手に入れた知識は忘れられてしまうのです。
【ダメージその2】学力の低下
一夜漬けのもたらすデメリットは、学力にも関係してきます。
2012年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校が535人の高校生に対して行なった調査で、睡眠と勉強時間、およびその後の成績について尋ねたところ、睡眠不足が成績の向上を妨げていることがわかりました。さらに米国マカレスター・カレッジの心理学助教授Cari Gillen-O’Neel氏が2013年に執筆した論文においても、睡眠不足が授業内容の理解度や提出物、テストの成績に悪影響を及ぼしていることが書かれています。
先にも述べたように、人間の長期的記憶は脳の海馬が司っており、睡眠時に定着します。筑波大学で睡眠に関する研究を行なった高木眞莉奈氏と林悠氏によれば、記憶の定着には、レム睡眠時に長期記憶を司る海馬からの脳波と、ノンレム睡眠時に長期記憶を司る大脳皮質からの脳波が必要不可欠であるのだそう。つまり、どれだけ勉強をしても、寝ないことには記憶として脳にストックされないのです。
【ダメージその3】睡眠不足の引き起こす心の病
一夜漬けをした翌日に眠くなってしまうことはよくあること。しかしながら、睡眠不足が慢性的に続いてしまうと、体の不調に加えて、精神にも負担をかけてしまう場合があるのです。
アメリカのロチェスター大学メディカル研究チームが明かしたところによれば、慢性的な睡眠不足は、脳の神経細胞を破壊するβアミロイドという成分を分泌し、βアミロイドが一定数たまるとアルツハイマー病のリスクが上がってしまうのだそう。
さらに、睡眠不足はうつ病のリスクまでも高めてしまいかねません。精神科医の森秀人氏は、慢性的な睡眠不足(4時間から6時間の睡眠を2週間)は、感情をコントロールする物質であるセロトニンの分泌に悪影響を及ぼし、感情の起伏を保つことができないうつ病の引き金となってしまうと述べています。
このように、毎日ほんの少し睡眠を削るだけでも、蓄積すると脳や心身にダメージが出てしまうのです。
具体的にはどう改善すればいいの?
そうは言っても、毎日時間がなく今の勉強・作業で手がいっぱい、という人は、どうすれば一夜漬けの習慣から抜け出せるのでしょうか。こうした悩みを抱えている人は、もしかすると普段の時間の使い方に問題があるのかもしれません。そこで、短い時間で効率的に勉強できる方法をお教えします。
【方法その1】分散効果
「分散効果」は、「一夜漬けではなく、コツコツ勉強するほうが、学習で得られる知識が長期化する」という意味の心理学用語です。
たとえば、2時間の勉強時間を確保したとき。一夜漬けのような集中学習において、2時間を一度に勉強時間へ費やすのでは、集中力が続かず記憶は短期的なものになってしまい、睡眠時間も削れてしまいますよね。そのような勉強のやり方ではなく、25分の勉強時間と5分の休憩を1セットとして、数回繰り返してみてください。そうすれば、同じ勉強時間に相当し、知識も長期化します。
この記憶メカニズムは、理化学研究所の永雄総一氏が行なった運動記憶に関する研究で、マウスやウサギなど脊椎動物への分散効果を試した実験から判明しました。皆さんも、寝る前に1時間、起きてから30分など、勉強のトピックに触れる機会を増やすことで、得た情報が長期的な記憶となりますよ。
【方法その2】7回繰り返し読み勉強法
7回繰り返し読み勉強法は、東大法学部を首席で卒業し、現在は弁護士として活躍する山口真由氏が、著書『東大首席弁護士が実践!誰でもできる〈完全独学〉勉強術』の中で紹介した方法です。皆さんも聞いたことがあるかもしれません。
端的にまとめると、学びたい領域の教科書や参考書を7回読むだけの勉強法です。
同氏は、1〜3回目に見出しから推測する「流し読み」をし、4、5回目に内容をつかむ「黙読」をし、6、7回目に「要約」しながら読むと、テキストの理解度が向上すると言います。
最初の段階では、テキストの全体像を大雑把に把握することで、何が書かれているのか、どういった情報を得られるのかを理解します。そして次の段階で、専門的な単語や知識を頭に入れ、最終的にそれらの単語や知識を使って要約をするのです。脳は、一度や二度の体験では、起こったことをすぐに忘れてしまいます。しかし、何度も同じ道をたどることで、記憶が定着していくのです。
これらの方法は、通勤・通学中の10分、15分でも実践できるので、一度試してみてはいかがでしょうか。
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「一夜漬け」は、近々に迫ったテストがゴールの勉強メソッドです。良い成績が取れたとしても、あなたの健康面や生活面には一生の悪影響が出てきてしまいます。毎日少しずつ、コツコツ勉強すれば、知識は人生の糧となり得るに違いありません。
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