2022/08/25
二方面への尊敬での「誰から」は、かならず一人
「申し給ふ」などのように、「謙譲語+尊敬語」という形になっている敬語表現がある。これを“二方面への尊敬一という。古文では頻繁に出てくるが、勘違いして理解している人がけっこういるようだ。二方面一という言い方が示すょうに、同時に二人の人に敬意を表わしたいときに使われる。敬う対象は作業を受けとる人一と作業をする人の2人になる。
古文では頻出するが、かならず「謙譲語+尊敬語」 になり、「給ひ申す」のように 「尊敬語+謙譲語」 の形になることはない。出題者はこの敬語表現にからめた問題をつくりたがる。
たとえば、「大納言殿の参りたまへるなりけり。」(『枕草子』一八四段)では、「参りたまへ」が “二方面への尊敬〈 である。これは『枕草子』の地の文で、大納言殿が中宮のところへ 「参りたまへる」と、筆者の清少納言は書いている。筆者の清少納言は、「参る」という謙譲語を使って中宮に、「たまふ」という尊敬語を使って大納言殿に、二人同時に敬意を表わしている。
「参る」という動作をしたのは大納言殿だから、その作業を受けとる人は中宮だ。頭に入れておいてほしいのは、“二方面への尊敬一 では 「誰へ」 は二人だが、「誰から」 はかならず一人である、ということだ。先の例では、「誰から」 は、地の文だから筆者の清少納言一人である。 これは、「誰から誰へ」 の敬語表現のときの 「誰から」 の考え方とまったくいっしょと考えればいい。「誰から」 というのは、「その敬語を含むワン・ センテンスを言った人から」 なのだから、“二方面への尊敬一 では 「誰から」は一人 になる。しっかり覚えておいてほしい。
例題
〔問〕傍線部「申され」は二種の敬意を表わしている。次のa~fから二つ選び、その記号をマークせよ。
a 書き手の、君に対する
b 書き手の、第九の宮に対する
c 書き手の、宣明卿に対する
d 第九の宮の、君に対する
e 第九の宮の、宣明卿に対する
f 宣明卿の、第九の宮に対する
「申され」 は、謙譲語「申す」と尊敬の助動詞「る」が組み合わさった二方面への尊敬 である。これが二方面の尊敬だとわかれば、簡単に解くことができる。ここでは敬語の視点と選択肢からのアプローチのみで解けるので、問題文はあえて載せない。
まず、「誰から」は一人、「誰へ」 は二人ということから、答えは、a、b、cの三つのうちの二つか、dとeの二つということになる。「誰から」 が二人になってしまうような、たとえばaとdのような組み合わせはありえないのである。
共通している部分を見ると、「書き手の」が三つあるa、b、cのグループのほうが、「第九
の宮の」が二つのd、eよりも意味ありげさが強い。
そこで、a、b、cから二つ選んだほうが、正解の可能性が高いのではないかと考えるりつぎに、後半部を見る。後半部だけだと、六個の選択肢で「君」「第九の宮」「宣明卿」 はそれぞれ二回ずつ出てくる。しかし、前半部も加えれば、「第九の宮」 は四回、「宣明卿」 は三回出てくるのに、「君」 は二回だけしか出てこないのだ。だから、「第九の宮」 と 「宣明卿」 の二つが 重いと推断して、bとcが答え。
正解もbとcである。